睡眠時の脳は記憶を“選別”する

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光の錬金術師れいあ

最新の研究によると、睡眠中の脳で「何を覚えておくか」「何を忘れるか」の選択が行われ、人の“賢さ”が養われているという。
記憶は睡眠中に脳に固定され、後から取り出せるようになっている。今回の研究では、さまざまな先行研究をふまえ、睡眠と記憶に関する新たな説を唱えている。脳内に固定された記憶は必ずしも正確ではなく、長期的に役に立つように形を変えられているという。そして、睡眠による記憶の選択のおかげで、覚醒中の洞察力が生まれ、推論が可能になり、抽象的な思考が促進されるという。

 研究チームのリーダーで、米インディアナ州にあるノートルダム大学の認知神経科学者ジェシカ・ペイン氏は、「睡眠中の脳は決して“愚か者”ではない。インプットされた情報を片端から記憶として固定するわけではなく、何を覚えておくか、何を忘れるか“計算”している」と話す。

「例えば、細かいところまでしっかり記憶として残るのは、感情に訴える要素だ」。ペイン氏の研究チームは、被験者に対し、前景側に大破した車、背景側にヤシの木が並んでいる場面を見せる実験を行った。車を覚えていてもヤシの木は忘れてしまう人が多く、特に一晩眠った後はこの傾向が顕著だった。

 脳は場面全体を記憶に残そうとするのではなく、最も感情に訴える要素、つまり最も重要と思われる要素だけを記憶するよう場面を再構築していると考えられる。脳活動の測定データでもこの説を支持する結果が出ている。脳の中で感情や記憶固定に関係する部位は、覚醒時よりも睡眠時の方が定期的な活動を活発に行っているのだ。

「感情に関わる情報を選択記憶するという働きには意味がある。私たちの祖先にとって、ヘビの居場所の記憶は生死に関わるし、部族内に著しく卑劣な者がいたら、覚えて避けようとしただろう」とペイン氏は説明する。「記憶という機能は、単に過去を覚えておくためというよりは、さまざまな可能性のある未来を事前に予測するために存在するのだ」。

 ただし、記憶の選択にはマイナス面もあるという。例えば、うつ状態や心的外傷後ストレス障害(PTSD)の影響下にあると、脳は不快な経験だけを重点的に記憶に残そうとし、ほかの経験は排除される。「今後の研究で、詳細な記憶として残る要素や、記憶されるメカニズムを解明できれば、心的外傷(トラウマ)の対処法も改善できるはずだ」とペイン氏は期待する。

 学校や会社で解決策を思い付く能力も、選択的な記憶の機能が関係すると考えられる。睡眠のどの要素がこのような心理過程と関係しているのか、今後の研究で明らかになることが期待されている。

 アメリカにあるハーバード・メディカルスクールで睡眠を研究する認知神経科学者ロバート・スティックゴールド氏は、今回の研究を受けて次のように話す。「“賢さ”につながる記憶の選択が行われるのは、夢を見るレム睡眠なのか、もっと深い眠りのノンレム睡眠(徐波睡眠)なのか。いずれにせよ睡眠中は、記憶の固定・強化だけでなくはるかに複雑な働きが行われている。睡眠時の記憶の処理方法は、非常に“賢い”ものなのだ」。

 今回の研究成果は、「Current Directions in Psychological Science」誌の2010年10月号に掲載されている。


http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20101202001&expand#title

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